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名古屋高等裁判所 平成12年(ネ)561号 判決 2000年12月06日

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 岩月浩二

被控訴人(被告) プロミス株式会社

右代表者取締役 A

右訴訟代理人弁護士 清水幸雄

同 本渡諒一

同 伊藤孝江

同 木島喜一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙謝罪文を交付せよ。

3  被控訴人は、控訴人に対し、90万円及びこれに対する平成11年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

5  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二事実関係

次のとおり補正するほか、原判決の事実欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決4頁2行目の「平成11年」の前に「控訴人に対する免責審尋期日の前である」を付加する。

2  同4頁3行目の「原告代理人」を「控訴人訴訟代理人(以下「控訴人代理人」という。)」と訂正する。

3  同4頁5行目の括弧書部分を削除し、7行目の「完済しているので」の次に「(以下、右信用情報を「本件信用情報」という。)」を付加する。

4  同6頁5行目の「信用情報の誤入力を訂正した。」を「本件信用情報について、誤入力を訂正する処理をした。」と訂正する。

5  同6頁6行目の「原告の免責」を「控訴人の免責申立て」と訂正し、6行目から7行目にかけての「申し立てた」の次に「(以下「本件異議申立て」という。)」を付加する。

6  同7頁2行目の「右異議申立て」並びに6行目、7行目及び11行目の各「異議申立て」をいずれも「本件異議申立て」と訂正する。

7  同8頁2行目の「信用情報」を「本件信用情報を取得し、これ」と訂正する。

8  同8頁3行目及び6行目の各「免責異議申立て」並び7行目の「異議申立て」をいずれも「本件異議申立て」と訂正する。

9  同8頁9行目から11行目までを次のとおり訂正する。

「10(被控訴人の行為の違法性及び故意又は過失について)

(一)  被控訴人による本件信用情報の違法な取得と使用

貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)30条2項は、貸金業者が資金需要者に関する信用情報を資金需要者の返済能力の調査以外の目的に使用することを禁止しているが、右禁止規定は、個人のプライバシー保護を目的とするものであるところ、被控訴人は、控訴人の免責申立てに対する異議申立てのために本件信用情報を取得し、本件信用情報を使って控訴人に対し返済を要求する行為(原判決請求原因2の行為)及び控訴人のした免責申立てに対し異議を申し立てる行為(同6の行為)をしたが、これら行為は、いずれも、右禁止に違反し、控訴人のプライバシーを侵害する違法な行為である。

(二)  確認義務違反による本件異議申立てとその維持

被控訴人は、前記のとおり、控訴人代理人から本件信用情報にかかる事実がない旨の通知を受けたのであり、かつ、本件信用情報の提供を受けた信用情報機関を介して本件信用情報の正確性を確認することが極めて容易であるから、仮に一般的に信用機関から提供された信用情報についてその真偽を確認すべき義務がないとしても、右のような経緯のもとでは、本件信用情報についてその真偽を確認すべき義務があったものというべきところ、被控訴人は、右確認義務を尽くさずに本件異議申立てに及び、本件信用情報が訂正された平成11年6月8日以降も、控訴人代理人からの本件異議申立てを取り下げるよう要求を受けながら、根拠のない本件異議申立てを維持し、そのため、控訴人に対する免責決定は相当期間遅延した。

被控訴人の右行為は、右確認義務に違反して、控訴人が免責を受けることを不当に妨害する違法行為である。

11(損害)

控訴人は、被控訴人の違法な行為により、プライバシーを侵害され、また、免責決定を得て早期に再起、更生を図る利益を妨害され、長く不安な状態に置かれるとともに、違法な本件異議申立てに対応するために無用な負担を強いられ、これによって甚大な精神的な苦痛を被った。

控訴人が受けた右精神的苦痛を慰謝するためには60万円が相当である。また、控訴人は、被控訴人の本件異議申立てに対する対応及び本件訴訟の提起追行を控訴人代理人に委任せざるを得なかったものであるところ、弁護士費用は、被控訴人の本件異議申立てに対する対応分として15万円、本件訴訟の提起追行分として15万円、合計30万円が相当である。

12(謝罪文交付請求について)

被控訴人は、違法に控訴人のプライバシーを侵害し、かつ、速やかに免責を得るべき利益を侵害したものであって、金銭賠償のみによっては控訴人の被害の回復が困難であるので、控訴人は、被控訴人に対し、民法723条の類推適用により、原判決別紙謝罪文<省略>の交付を請求する権利がある。」

10  同9頁1行目の「10」を「13」と訂正する。

11  同10頁10行目及び11行目の各「異議申立て」をいずれも「本件異議申立て」と訂正する。

12  同11頁5行目の「9、10」を「9ないし12」と訂正する。

13  同11頁5行目と6行目の間に次のとおり付加する。

「 被控訴人が本件信用情報を取得し、これを利用した目的は、控訴人の破産申立て及び免責申立てを受けて、破産債権者として法律上認められている免責申立てに対する異議申立て等の権利行使のためであって、その取得及び利用も本件異議申立てに必要な範囲に止まっていて、本件信用情報を第三者に漏洩等したわけではないから、本件信用情報の取得及び利用は、その目的及び利用態様からして、控訴人に対する不法行為を構成するものではない。なお、貸金業規制法30条2項は、本件異議申立て等の法律上認められた権利行使の目的からの信用情報の取得及び利用までを禁止しているものとは考えられないが、仮に右目的での被控訴人の本件信用情報の取得及び利用がこの規定に違反するとしても、同項は、訓示規定であるから、これに違反する行為が直ちに控訴人に対する不法行為となるものではない。

また、破産債権者が、破産者のした免責申立てに対して異議を申立てる権利があることは破産法の明定するところであるから、被控訴人の本件異議申立ては正当な権利行使である。本件信用情報が誤情報であることが明らかになったのは、本件異議申立て後のことであるから、被控訴人が本件異議申立てをしたことに違法はない(なお、本件信用情報の誤情報の原因は、株式会社ユニマットライフが誤入力したことによるのであって、被控訴人には何の責任もない。)。」

第三当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決11頁9行目から12頁5行目までを次のとおり訂正する。

「一 判断の前提となる事実

1  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2の事実中、被控訴人従業員が控訴人代理人に架電し、控訴人の他の債権者への弁済は免責手続上問題であると述べたことについては当事者間に争いがなく、また、被控訴人が控訴人の右弁済は本件信用情報による旨述べたことについては証拠(甲5、6)及び弁論の全趣旨によって認められる。

しかしながら、被控訴人の従業員が、控訴人代理人に対し、被控訴人に対する返済を期待していることを示し、免責申立てに対し異議申立てをすることを示唆して被控訴人に対する債務返済を迫ったとの事実については、これを認めるに足りる証拠はない(被控訴人の従業員と直接交渉をもった控訴人代理人作成の陳述書にも、被控訴人従業員の電話は、偏頗弁済を口実に被控訴人に対しても弁済することを期待するかのような不愉快な印象を与えるものであったとの記述があるだけであって、右主張事実を認めるに足りない。)。

3  同3、4の事実中、控訴人代理人が被控訴人に対して返済することはできないことを伝えるとともに、事実を確認して連絡する旨回答したこと、その翌日、被控訴人従業員が控訴人代理人からの電話を受け、控訴人代理人の回答を当初の従業員に伝えると発言したことについては当事者間に争いがなく、その余の事実は証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によって認められる。

4  同5の事実は、証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によって認められる。

5  同6の事実は、当事者間に争いがない。

6  同7、8の事実中、控訴人代理人が被控訴人に対して本件異議申立てを取り下げるよう求めたこと、被控訴人が平成11年6月8日以降も本件異議申立てを維持したこと、控訴人の免責異議申立期間が同年7月6日までであったこと、控訴人の免責決定が同年8月5日に出されたことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実と証拠(甲4、6)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人の免責申立事件について、免責異議申立期間が平成11年7月6日までと指定されたこと、右免責申立て事件において、控訴人代理人が、本件異議申立てをした被控訴人に対し、被控訴人が免責不許可事由として主張する偏頗弁済の事実を特定して主張し、その証拠を提出するよう求め、それができないのであれば、本件異議申立てを取り下げるよう主張したが、被控訴人が右偏頗弁済の事実を特定して主張せず、また、本件異議申立てを取り下げることもなかったことが認められる。

7  同9の事実に関連して、証拠(甲5ないし7、乙2)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の従業員は、控訴人の免責申立てに対処するために、被控訴人備付のコンピューター端末を利用して、被控訴人が加盟する情報信用機関である中部情報レーダースから、本件信用情報を引き出して取得したものと認められる。

なお、同事実中、被控訴人が、控訴人に対し、本件信用情報を使用して、被控訴人に対する債務の返済を要求したとの事実は、前記2のとおり、これを認めるに足りる証拠はない。

二 被控訴人による本件信用情報の取得及び使用行為の違法性の有無について」

2 同12頁6行目の「本件信用情報は、」の次に「誤情報ではあるが、控訴人が債務を負担している事実を前提として、自己破産申立て後にその返済をいうものであるので、」を、8行目の「該当するので、」の次に「一般的には、」を各付加する。

3 同12頁9行目「いえる」から13頁4行目までを次のとおり訂正する。

「いえる。

そして、貸金業規制法13条は、貸金業者は、資金需要者である顧客となろうとする者の資力又は信用、借入れの状況、返済計画等について調査し、その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約を締結してはならない旨規定して、過剰貸付けを禁止している。また、同法は、過剰貸付け防止のための、資金需要者の借入金返済能力に関する調査に関する方策として、同法30条1項において、貸金業者を会員とする貸金業協会に対して、資金需要者の借入金返済能力に関する信用情報の収集と貸金業者に対する提供を行う信用情報機関を利用させる等の方法により、過剰貸付けをしないよう指導すべき旨規定し、同条2項は、貸金業者である会員は、資金需要者に関する信用情報を資金需要者の返済能力の調査以外の目的で使用してはならない旨規定している。

右によれば、同条2項は、資金需要者に関する信用情報が個人のプライバシーに属する事項であり、その不適正な取扱いによりプライバシーを侵害するおそれがあるため、プライバシー保護の観点から、貸金業者に対し、資金需要者に関する信用情報を与信の際の資金需要者の返済能力の調査以外の目的で使用することを禁止したものであるから、被控訴人が、その加盟する信用情報機関から取得した控訴人の信用情報に基づき、これを内容とする事実を被控訴人の異議申立ての異議事由として主張することは貸金業規制法30条2項に違反するのであり、さらには、控訴人の免責申立てに対処するためとはいえ、異議事由の有無を探索することを目的として信用情報機関から控訴人の信用情報を取得することも右規定の趣旨に反するものと解される。

しかしながら、同法13条は、過剰貸付けを禁止しているものの、同法には、この規定に違反して過剰貸付けをした貸金業者を処罰する規定も、過剰貸付けに係る金銭消費貸借契約を無効とする規定も置かれていないのであるから、右過剰貸付け禁止規定は、貸金業者の業務の在り方に関する、いわゆる訓示規定であると解される。また、同条30条1項についてはもとより、同条2項についても、同項に違反した貸金業者を処罰する規定は置かれていない。そして、同法30条2項は、前記のとおり、同法13条、30条1項の規定を受けて、貸金業者による過剰貸付けの禁止の実現を図るための信用情報の活用を図る方策に付随して設けられた規定であることを総合して勘案すると、同条13条と同様、貸金業者の業務の在り方に対する訓示規定であるというべきである。さらに、右信用情報機関が収集した信用情報は、予信判断のためとはいえ、貸金業者による使用を前提として収集されたものであり、かつ、目的外使用に係る信用情報の種類及び内容、目的外使用の態様には種々のものがあるので、信用情報の目的外使用が直ちに右信用情報に係る個人のプライバシーを違法に侵害するとはいえない場合もあるから、結局、被控訴人による本件信用情報の取得及び使用が、控訴人のプライバシーの権利を侵害する違法性を有す」

4 同13頁11行目から14頁3行目までの括弧書部分を削除する。

5 同14頁11行目の「であるから、」の次に「破産債権者が破産者の免責申立てに対して異議を申し立てる権利は最大限に尊重されなければならず、異議を申し立て、これを維持する行為が違法であるかどうかを判断するに当たっては、右異議申立権を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされるのであって、」を付加する。

6 同15頁2行目の「したがって、」の次に「控訴人代理人が被控訴人の従業員に対し、電話で、被控訴人指摘の偏頗弁済の事実がない旨の回答をしたこと、控訴人の免責申立事件において、控訴人代理人が、被控訴人に対し、被控訴人が免責不許可事由として主張する偏頗弁済の事実を特定して主張し、その証拠を提出するよう求め、それができないのであれば、本件異議申立てを取り下げるよう主張したこと及び株式会社ユニマットライフが、平成11年6月8日には、本件信用情報につき、誤入力を訂正する処理をしたことを考慮しても、」を付加する。

7 同15頁8行目「また」を次のとおり訂正する。

「3 次に、被控訴人による本件信用情報の取得及び使用が、控訴人のプライバシーの権利を侵害する違法性を有するか否かについて検討するに、本件情報は、前記のとおり、控訴人が自己破産申立て後に特定の債務を返済したことを内容とする誤情報であるが、控訴人の債務負担の事実を前提としてその返済の存否という個人の経済生活におけるプライバシーに属する事項ではあるものの、右事実の存否は、債権者の利害に直接かかわる、免責不許可事由の存否として裁判所の職権調査により明らかにされるべき内容のものであるから、控訴人の全く私的な生活事実とは言えないのであって、本件信用情報が被控訴人によって貸金業規制法30条2項に違反して取得され、使用されたからといって、控訴人に対し賠償に値するような損害(非財産的な損害を含む。)を発生させるものということはできないところ」

8 同15頁10行目の「信用情報を」を「本件信用情報を取得し、」と、「右信用情報」を「本件信用情報」と各訂正する。

9 同16頁1行目の「その使用行為」を「本件信用情報の種類及び内容並びに被控訴人の本件信用情報の取得及び使用行為」と訂正する。

10 同16頁3行目の「3 また」を「なお」と、3行目の「免責異議申立て」及び5行目から6行目にかけての「異議申立て」をそれぞれ「本件異議申立て」と各訂正する。

11 同16頁8行目の「できない」の次に「(したがって、控訴人が本件異議申立てに対応する措置を講じたことや右一か月間免責決定が得られない状態におかれたとしても、それは、免責申立て制度に内在するものとして、法の予定する範囲内のものであるにすぎない。)」を付加する。

12 同16頁10行目の「の使用行為」から11行目の「む。)」までを「を取得し、これを使用する行為(本件異議申立てを含む。)並びに本件異議申立てをしてこれを維持する行為」と訂正し、11行目の「まで」を削除する。

二 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内捷司 裁判官 長門栄吉 加藤美枝子)

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